オルゴールってなんだ!? 藍川 情

*1 シリンダー・オルゴール
金属製の円筒(シリンダー)に短いピンを打ち込み、この円筒をゼンマイ等で回転させ、ピンが直接調律された櫛状の金属板を弾くことによって音楽を奏でるオルゴール。一曲の演奏時間が短いことや簡単にシリンダーを交換できないため、複数の曲を演奏することが困難であるといった欠点をもつ。一本のシリンダーに複数の曲を収録したものや、シリンダー交換型のものも作られたが、やがてディスク・オルゴールへと移り変わっていった。
現在、ファンシーショップなどで見かけるオルゴールのほとんどはこのシリンダー・オルゴールの簡易版である。

*2 ディスク・オルゴール
金属製の円盤の表面にプレスで穴を空けて突起を作り、これがスターホイールと呼ばれる歯車を仲介に櫛歯を鳴らすオルゴール。
ディスクの交換が容易で、しかもディスクをプレスで作れるので量産が可能であった。また、より滑らかな音を出すために突起部分を取ったものも作られた。
蓄音機が登場してからは、レコードとオルゴールの両方が使用できるという兼用タイプのものも作られた。

*3 ホール・オブ・ホールズ
清里の「萌木の村」にあるオルゴールの博物館。さまざまな種類のオルゴールがあり、行くたびに新しいものが入っているので、何台あるのかは定かではない。展示されている以外のオルゴールはどこに保管されているのかは謎である。
毎週水曜日の夜(二月と十一月は休館日の火曜日以外の日)にオルゴールのコンサートを催してくれる。(予約要)
地下には、壺や皿など陶器やガラス製品なども展示している。こちらも桁違いのコレクションらしく月毎に変わるが一度見損なうと十数年同じ物が見られないらしい。

*4 ストリート・オルガン
ハンドルを回すことによってフイゴを動かし、その風をリードやパイプに送り込んで鳴らす。音の指定には木製の筒にピンを打ち込んだもの(バレル)や、長い紙に穴をあけたものを使用していた。
特に本のように折り畳んだものをブックと呼び、これを使用したものには馬車に乗せるような大型のものも作られた。これらは町の中で使われたためストリート・オルガンと呼ばれた。客寄せやパレード、オルガンのない教会の礼拝用などにも使用された。
ブックを使用したストリート・オルガンは長時間演奏が可能で、また他のオルゴールに比べるとかなり大きな音を出すことができる。
シリンダー・オルゴールやディスク・オルゴールが貴族たちの間で楽しまれていたのに比べ、ストリート・オルガンは庶民に親しまれたものだった。しかし、時代が進むにつれ、ストリート・オルガン弾きは姿を消してゆき、道端に使い古されたストリート・オルガンが捨てられていたという。

*5 オート・マタ
オート・マタとはからくり人形のことである。ここでいうオート・マタとはオルゴールの組み込んだものを差している。煙草を吸ったり、踊ったり、手品をしたり、さまざまなタイプのものがある。
現在でも昔の製法のままに作られているものがあり、ミッシェル・ベルトランのオート・マタなどは有名である。

*6 自動演奏ピアノ
従来ある楽器に自動演奏機能を組み込んだものもいろいろあるが、その中でもよく知られているのがこの自動演奏ピアノである。
演奏には穴のあいたロール状の紙やブックを使用する。機構はストリート・オルガンとほとんど同じである。
リプロデューシング・ピアノと呼ばれる、当時のピアニストの演奏を音の強弱も含めてロールに記録し、再現のできるものもある。

*7 コンピューター・ミュージック
コンピューターにデータとして曲の情報を記憶させ、また計算によって音色の波形を作り出して演奏する音楽。初期の頃は正弦波など簡単な波形しか作り出せなかったが、現在では理論上存在する音ならほとんど再現可能だといわれている。
今日、テレビやラジオ等で聞こえてくる音楽はこのコンピューター・ミュージックを使用していないものはほとんどないとすらいわれている。
コンピューター・ミュージックの最大の特長は音程や音の長さに狂いが生じないこと。また、人間には不可能なテンポの演奏をしたり、簡単に移調したり、複合したりすることもできる。しかし、一番重宝がられているのは、オーケストラを揃えなくてもほぼ同レベルの音楽が得られるなど、簡単に音楽をプロデュースできることである。
また、楽器を演奏できない人でも割合楽に音楽を作れるので、趣味としてやっている人も多い。
とにかく、現在のところこれ以上に簡単に自動演奏が作れる方法はないだろう。

*8 カセットタイプオルゴール
今までオルゴールに収録されていた曲はだいだいどれも同じようなものばかりだったが、これはさまざまなジャンルの曲がある。
演歌などをオルゴールで聞くのも面白いかも知れない。
ただ、一曲がかなり短いのが欠点である。

*9 これは実際に手回しのオルゴールを机の上に置いて回してみるとよくわかる。けっこう大きな音になる。

*10 普通のストリート・オルガンのハンドルは片手で難なく回せるくらいの大きさだが、中には蒸気機関車の車輪ほど大きいものもある。先に紹介した「ホール・オブ・ホールズ」にこれに当るものが展示されていて、コンサートの時に実際に回させてくれる。
もともと、ストリート・オルガンのハンドルをテンポよく回すのは想像するより難しく、慣れる必要があるが、これの場合はきちんとした演奏できるようになるには相当の慣れとそして体力が必要であろう。普通の人では一曲演奏することができてもしばらくは息が切れて喋ることもできないだろう。かつて、これを町へ曳いて演奏していたとはすごいとしかいいようがない。

*11 ICカード
別にテレホンカードのような磁気カードでも構わないのだが、磁気カードでは記録できるデータが極めて少なくなる。逆にICカードではかなりのデータが記録できるので、数十分から場合によっては数時間の演奏をさせることができるだろう。

*12 ボトルブロー
正式名称がこれでいいのかどうか定かではない。間違っていたら笑って許してほしい。
一種類のビンでは、たぶん水でも入れて空気の容積を変えない限り音程を変えられないと思うのだが聞くところによると、これで音楽を演奏できる人がいるそうだ。
一度聴いてみたいと思っている。

*13 オーケストリオン
櫛歯だけではなく、打楽器や笛などを仕込んだオルゴール。
オーケストラ・オルゴールともいう。

*14 ジュークボックス
コインを入れるとオルゴールが鳴りだすものには人形が踊るなど仕掛けの大がかりなものが多い。
ここでいうジュークボックスタイプのオルゴールとは、あらかじめ数曲セットされている中から聞きたい曲を選択してコインを入れると音楽が鳴り出すという本格的なものである。
この中でもオートチェンジャーと呼ばれるものはゼンマイの力でディスクを収納場所から自動的に取り出し、演奏が終わった後はまた自動的に元へ戻すという仕掛すら持っていた。

 オルゴールと聞いて思い浮かべるものはどんなものだろうか。
 多くのひとは宝石箱のオルゴールや、最近ファンシーショップなどでよく見かける手回しの小さなオルゴールを思い出すのではないだろうか。しゃれた喫茶店やアンティークの店におかれているシリンダー・オルゴール(※1)やディスク・オルゴール(※2)を思い出す人もいるかもしれない。この本を読んでいるあなたは「ホール・オブ・ホールズ(※3)」の様々なオルゴール、ストリート・オルガン(※4)やオート・マタ(自動人形)(※5)、自動演奏ピアノ(※6)などを思い浮かべたかもしれない。
 オルゴールとは、もちろん特定の形状をしたもののみをさして呼ばれている言葉ではない。自動演奏装置(Mechanical Musical Instruments)のことである。
 日本オルゴール協会の定義によると「オルゴールとは、手動または自動的に音楽を演奏する機械で、櫛歯に似た特殊鋼製の発音体(鳴金または振動板)を回転胴(ドラム)に植えつけられているピンで弾き、自動的にメロディを奏でるもの」となっている。しかし、この定義はかなり狭義だと思う。これではストリート・オルガンや自動ピアノは音を指定する部分にも音を鳴らす部分にもあてはまらない。他にも弦を発音体としたオルゴールや、ディスク・オルゴールでさえ正確にはあてはまらない。
 大雑把な定義になるが、「音楽を自動演奏させる機械の総称」とすればこれら総てを含むことができる。
 しかし、この定義も正しい表現とはいいきれない。
 そのよい例がコンピューター・ミュージック(※7)。これは現在のところ最も極めた形の自動演奏装置の姿であろう。正確なリズム、音階、そして多彩な音色。しかしこれをオルゴールと呼ぶ人はまずいないだろう。
 それでは、どういったものをオルゴールと呼び、どんなものがオルゴールと呼ぶにふさわしくないのだろうか。それについて独断と偏見を交えて考察してみようというのが、本文のテーマである。

 今日さまざまなオルゴールが存在する。
 半世紀から一世紀も前に作られた古いオルゴール。できるだけ昔のままの製法で作られたオルゴール。これらの多くは写真や博物館のガラスケースごしにしか見ることのできないもので、高価なため一般の人たちが所有することはあまりない。
 一般の人たちが所有可能なオルゴールにも色々なものがある。
 宝石箱や置物にしこまれたオルゴール。それから簡単なオート・マタ。人形が首を動かしたり、踊ったりするものだ。赤ちゃんをあやすサークルメリーのオルゴールもほとんどの人が知っているオルゴールの一つ。優しい音色と共に、ぶら下がったピンクや黄色のリボンがふわっと回る。若い人の多くはこのオルゴールの音色を聞きながら育ったのではないだろうか。
 冒頭にも書いたが、最近では手回しのオルゴールをよく見かける。手回しのオルゴールというとストリート・オルガンを思い浮かべる人も多いだろうが、これは宝石箱の中のオルゴールからゼンマイをはずして小さなハンドルを付けたものだ。市販されているオルゴールの中ではおそらく最も簡単な機構のオルゴールである。これの類似品でハンドルの代わりにレバーが付いていて、これを押すと一音鳴るというものも出回っている。リズムにあわせてレバーを押せば音楽になるという、どこかのキーボードのCMのようなものだ。まだある。音楽用カセットタイプのオルゴール(※8)もある。これは外見が音楽用カセットと同じで、ちゃんと同サイズのケースに入っている。違うのは、磁気テープの代わりに小さなオルゴールが入っていて、ゼンマイを巻くと音楽が鳴り出すということだ。
 さて、ここで少し考えてみたい。まず、オルゴールというものは形状を問わないということ。
 ここにあげた例は、実は音楽を演奏している部分の形状にはほとんど差がない。特に一般に手に入れることのできるオルゴールは、シリンダーと呼ばれる円柱状のものを回転させ、その表面に付けられた突起(ピン)で櫛歯をはじいて音を出すタイプのものだけだ。
 しかし、これらのものをオルゴールと呼ぶとき、一般にその演奏している部分だけをいうのではなく、全体をさして呼ぶ。カセットの形をしたものをそう呼ぶのには少々抵抗を感じる気がするが、これをオルゴールと呼ぶ場合、音楽を演奏している内部の部品だけをさして呼ぶわけではない。
 このことから、オルゴールとはそのケースをもその部品の一つと考えているのだということができるだろう。実際、古いオルゴールにおいて、木製のケースはただの飾りではなかった。音を共鳴させるための大事な部品だったはずである。
 さて、そうするとこんどは手回しのオルゴールやワンキーのオルゴールに問題を生じてくる。ケースのないオルゴールは部品の欠けたオルゴールということになるからだ。  実のところ、私はその通りだと考えている。もともとケースから取り出したもので、ケースに入れる前の未完成品といえるだろう。ただし共鳴させるものがあればいいわけだから、オルゴールを机の上などに置いて回した場合(※9)は、机が共鳴板となるので完成したオルゴールと呼ぶことができるわけだ。
 この二つのオルゴールにはもう一つ気になる点がある。どちらも演奏を人力に頼っているところだ。
 ゼンマイのように間接的に人力を必要とするのではなく、演奏の最中に人力を必要とするものを自動演奏装置と呼んでよいものだろうか。先にあげた日本オルゴール協会の定義に「手動または自動的に音楽を演奏する」とある。演奏を人力に頼っていてもオルゴールとして認めるというわけである。
 確かに古いオルゴールにも、バレルと呼ばれるシリンダーを大きくしたようなものを使用するオルゴールには、人がハンドルを回すことによって演奏するものがある。それにストリート・オルガンの場合は人力(※10)が普通である。
 なるほど、人間がハンドルを回すなどの一定の力を加えてあげるものもオルゴールと認めることができるわけだ。
 しかし、ワンキーのオルゴールはどうだろうか。
 このオルゴールは、一定の速度でレバーを押せばよいわけではない。まして、レバーによってゼンマイを巻くわけでもない。演奏される音楽のリズムに合わせて押さなければならないのだ。
 手回しのオルゴールでは仮に演奏される曲を知らなかったとしても、一定の速度で回すことによって、その音楽を楽しむことができる。しかし、ワンキーのオルゴールはその曲のテンポを知らなければ、正確には曲を演奏することが不可能、またはきわめて困難ということになる。
 つまり、このオルゴールには、いままでのオルゴールの概念になかった人間の思考力を補助として必要とするという要素を持つのである。
 この要素をオルゴールとして認めると、オルゴールは定義できなくなる。例えば木琴の木を音楽の音符に合わせてずらりと並べ、これを順番に叩けば音楽になりますというものがあったとして、これをオルゴールと呼べる人がいるだろうか。(今、「はい」といった人、もう先は読まなくていいよ)
 どうやら、ワンキーのオルゴールは異端児らしい。確かにオルゴールとして売られているので、認めないわけにはいかない。しかし、音楽に欠かせない要素である「テンポ」を自動化することがこのオルゴールに欠けている以上、他のオルゴールと同列に加えるわけにはいかない。自動演奏装置とは呼べないのである。
 さて、ここまできてオルゴールとはどういうものかだいたいの見当がついた。
 音楽における音の三要素は音色・音程・音の長さである。このうち音程と音の長さは紙や金属製の円盤・円筒上のものに、ある一定の規則の下に記録される。場合によって複数の音色を使用する場合はその情報も刻まれる。これを、連続的に音色及び音程を決定する発音体に伝え、発音することによって音楽を構成する。これをオルゴールと呼んでいるわけだ。
 基本的にどんな音色を使おうともオルゴールになりうるはずだし、記録するものは先に上げたものに限定されるわけではない。発音体へ連続的な伝達の手段さえあれば、鉄の延べ板であろうと石ころのような不定形物であろうと構わないはずである。
 すると逆にこの範囲内でどんなオルゴールが考えられるだろうか。
 先にオルゴールでない自動演奏装置としてコンピューターミュージックを上げたが、こんなものはどうだろうか。
 発音体は現在のシリンダーオルゴールのように櫛歯を使い、記録の部分に最近はやりのICカード(※11)を使用したもの。動力は手動でも自動でもいい。これをオルゴールと呼ぶことはできるだろうか。これは意見の別れるところだと思うが、私はイエスだと思う。ちょっと想像してみてほしい。宝石箱の側面部にICカードを差し込む部分があり、ここへ聞きたい曲のカードを差して、ゼンマイを巻く。すると、ICカードから電気的に取り出された音のデータがモーターの連動した爪を操作して櫛歯をはじく。むろん、あらかじめ電池を入れておく必要もあるが、これで櫛歯の奏でる音楽が流れてきたら、あなたはこれをオルゴールと呼ぶのではないだろうか。
 他にも考えてみよう。
 本来、発音体の音程は決定されている。櫛歯はもちろんストリートオルガンのリードや自動ピアノ、チターのオルゴールの弦も、一つにつき一つのある一定の音程が決められている。これを変更できるものはどうだろうか。たとえば一般的な笛。指で穴を塞ぐことによって音程は変えられる。またはボトルブロー(※12)。よく空きビンなどに口をつけて吹いて汽笛のような音を出したものだが、あれはビンの容積によって音が変わる。ピストンのようなもので容積を変化させ音程を変えることはできるはずだ。こういったものを発音体にしたオルゴールはどうだろうか。
 これはオルゴールと呼べるかどうか以前に、機構的にかなり難しいことが問題になるだろう。また複数の音を出すためには同じ機構のものをいくつも並べなくてはならないし、急激に変化する音程に対応することは極めて困難だと考えられる。
 しかし、まるっきり不可能なわけではない。実はこれに当てはまるものが現在すでに作られている。その自動演奏装置は、従来あるクラッシックギターをそのまま装置に組み込んで、油圧で弦を押さえ、爪で弦を弾くというものである。これは人間に可能な演奏ならすべてこなせるという素晴らしいものである。
 ただ、これも実物を見てオルゴールと呼べる人はほとんどいないだろう。どちらかというとこれはロボットで、あくまで人間のようにギターを弾く。実際、発音体であるギターを取り外しても、決して未完成品とは呼べないから、オルゴールの定義にはあてはまらないことになる。
 オルゴールのケースもその部品の一部だという話をしたが、はたしてどこまでオルゴールのケースとして認められるだろうか。例えば、建築物の中に組み込まれたオルゴールがある。銀座のマリオンやアークヒルズのサントリーホールなどは知っている人も多いだろう。このオルゴールの場合、いくらなんでも建物全体をさしてオルゴールとはいわない。(もちろん建物が共鳴板になっているわけでもない)人によっては時計をさしてオルゴールと呼ぶだろうし、出てくる人形などをそう呼ぶかもしれない。しかし、厳密にいえばこれが間違いであることは、ここまでつきあって読んでくれた人にはわかるだろう。
 日本オルゴール協会の定義の中には共鳴板たるケースについてのことが書かれていない。これは当然のことで、定義不能だからである。古いオルゴールでもそのケースの形状はまちまちであった。小型のオルゴールなら宝石箱のようなもので納まるが、さまざまな楽器の仕込まれたオーケストリオン(※13)やジュークボックス(※14)としてのオルゴールではタンス以上の大きさのものもある。このように大きなものになると、そのケース全体をさしてオルゴールと呼んでいいものかどうか判断が難しくなる。例えばジュークボックスタイプのオルゴールでは、下部に替えのディスクやバレルが収納されているものがある。この部分をもオルゴールの一部として認めるかどうかは人によって意見の別れるところであろう。また、自動ピアノのように従来ある楽器では、その楽器の構成ケースがその替わりになる。この場合も、これをオルゴールとして演奏したときに、オルゴールのケースとして認めるかどうか判断しかねるところだ。
 つまり、ケースは存在すればそれでいいわけで、それ以上の定義はないのである。各個人の認識の仕方に任されているといい換えてもいい。

     *           *           *

 十九世紀から二十世紀前半に全盛期を迎えたオルゴールの製造技術は、現在ほとんど失われているという。今日作られているオルゴールはその頃の技術の一部を復活して製作されているにすぎない。まだ、いろいろな発展の可能性のあったオルゴールが、蓄音機やラジオに一掃されていったことは、やむを得ないだろうと思う半面、残念でならない。
 ただ二十世紀末の現在、当時のオルゴールの演奏を楽しむことができるのは幸せである。
 オルゴールを作った職人達が現在生きていたらどんなオルゴールを作り、どんな演奏を聞かせてくれるだろうか。そんなことを考えながら、この文の最後に私の考案したオルゴール達を紹介しよう。ただし、ここに上げたものは机上のもので、現実には不可能なものがほとんどであると思われる。ひょっとすると、すでに似たものが作られているかもしれない。まあ、オルゴールを基にしたお遊びだと考えていただきたい。

◇櫛歯の二枚付いた輪唱オルゴール
 シリンダーに接する櫛歯が複数に存在するオルゴール。このオルゴールでは一枚の櫛歯が奏でるメロディをもう一枚が追っかけて演奏する。欠点は輪唱に向く曲にしか使えないこと。手回しの簡易オルゴールでなら存在しても面白いかもしれない。

◇シリンダーに平行移動機能のついたオルゴール
 シリンダーよりも長い櫛歯を使い、接する面が移動する。これにより曲を移調させたりオクターブを上げ下げしたりして演奏することができるオルゴール。これも製作不可能ではないだろうがわざわざ作る意味はほとんどない。

*15 歓喜の歌
もちろん、ベートーヴェン作曲交響曲第九番「合唱付」の中の第四楽章で歌われるシラー作「歓喜に寄す」のことである。
関係ないが、年末になるとこの第九が演奏されるが、あれは日本独自のものらしい。

◇複数のシリンダーと櫛歯を持つ合唱できるオルゴール
 同じ音でも同時に鳴らせば厚みができる。まったく同じものを鳴らしてもいいし、高音部と低音部に分けてもいい。その気があれば四部構成で「歓喜の歌(※15)」を鳴らすのもいいかもしれない。しかし、分割するのであれば一つのシリンダーと櫛歯でもアレンジによっては可能だ。そう考えると二つの手回しオルゴールを同時に回せるようなオルゴール台でも作ったほうが効率がいいだろう。

◇発音体を選択できる打楽器向けオルゴール
 一定の間隔をあけてバチの並んでいるこのオルゴールは、そこに木琴や鉄琴、チューニングされたチャイム群などをセットすることによって音色の違う演奏が可能となる。水の入れたグラスを叩いて演奏することもできるかもしれない。ただ欠点として結構大きなものになる。そうしないと発音体を必要オクターブ分並べることができない。

◇風車を動力としたオルゴール
 大型のものではオランダ名物の風車や、同タイプとして水車に組み込んだオルゴールが考えられるが、ここにあげたものは口で吹いて回す風車。それにギアを入れて回転を落とし、シリンダーを回す。子供には一息で一曲演奏することは難しいと思われる。また、似た発想で風力計に仕込んだオルゴールというものも考えられるが、肝心の風力測定の正確性を欠く恐れがあるのと、風力を四分音符のテンポで測られる可能性があるのでやめたほうが無難だろう。

*16 巨人の星
知らない人はまずいないと思うがかつて「スポコン」という言葉を流行らせるきっかけを作った野球マンガである。
「スポコン」という言葉は死語になったが、いまだにギャグのネタに使われることがある。

◇学校向けローラータイプオルゴール
 これは全くの冗談である。テニスコートなどをならす重いローラーの中にオルゴールを仕込み、ローラーを引くと音楽が鳴るというものだ。野球部の体力作りに「巨人の星(※16)」なんかいいかもいれない。

 以上が私の偏見に満ちたオルゴールに関する考察である。実はオルゴールについてはちょっとかじった程度にしか知識がなく、とても真正面から考察したものが書けないため、このような内容で書くことになってしまった。本当にオルゴールを愛している人には申し訳ないことを書いてしまったと思うが、どうか笑って勘弁していただきたい。

 (この場を借りまして、私にオルゴールの本当の良さを教えてくれた「ホール・オブ・ホールズ」の皆さんに、深く御礼申し上げます)

 参考文献:音楽之友社刊 名村義人著「オルゴールの詩」


 注意:注釈※3の「ホール・オブ・ホールズ」についての記述の中で、オルゴールコンサートのことが書かれていますが、現在は水曜日と土曜日に変更になっています。
 また、本文中のストリートオルガンの動力に関する記述で、「人力が普通」とありますが、これは間違いで、蒸気モーターなどが使われていました。「ホール・オブ・ホールズ」で、最初の頃はよく人力で廻していたため、そういうものなのかと勘違いしてしまったのです。